続【誰も語らない】群馬県老人ホームの闇に迫る ≪ 中編 ≫
2021年1月27日の参議院予算委員会で菅義偉内閣総理大臣は、新型コロナウイルスの対策によって生活困窮する問題について「最終的には生活保護がある」と発言しました。
発言の是非については他に譲りますが、『介護評論』では「【誰も語らない】群馬県老人ホームの闇に迫る」の続編として、生活保護の問題から更に「闇」を深掘りしていきます。
(本記事は特定の施設や団体、個人などに対する誹謗中傷を意図しておりません。その点、悪しからずご了承ください)
「静養ホームたまゆら」火災事故
2009年3月19日に群馬県渋川市の無届け高齢者施設である「静養ホームたまゆら」から出火。入所者10名が死亡しました。失火原因は入所者の寝たばこで、消防設備が無かったことが死亡に至った理由として、当時の理事長が有罪判決となりました。
世間の耳目を集めたのは死亡したうち6人が、介護が必要な東京都墨田区の生活保護受給者であったことです。
日本介護史上最大の汚点ー。
いわゆる「貧困ビジネス」という言葉が世間に広まりました。これにより、消防設備の法改正や高齢者住宅の統合(サービス付き高齢者向け住宅)が促進され、届け出が義務付けられることになります。
増え続ける介護施設難民
生活保護のうち高齢者世帯の構成比は約51%です。
(出典:2017年5月11日付 厚生労働省社会第1回保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会「生活保護制度の現状について」)
さらに高齢者生活世帯のうち90.8%が単身世帯。要支援・要介護認定率の全国平均18.3%(1号被保険者)から算出してみます。
生活保護の独居介護高齢者は「13.9万人」となります(2020年11月現在の最新データでは「14.9万人」)。
問題はこの層が重介護になり、特に都市部で特別養護老人ホームに空きが無い場合です。
日本は戸籍制度を採用しているので、海外と比較して生活保護の申請までのハードルが高い。預貯金が底をつき、不動産など現金化できるものがなく、更に家族・親族の支援があっても生活が成り立たないときに、不足分が支給される仕組みです(本稿では戸籍制度の問題については触れません)。
指摘したいのは、生活保護費の限度全額でも受入れ可能な価格帯の民間介護施設は都市部では極わずかしかないということです。
つまり「たまゆら火災事故」の苦い教訓は、表面上だけの改善だけに止まりました。
住所地特例施設の拡大で元にもどる
「ホームの雰囲気が変わるから受け入れたくない」その是非はともかく、介護施設運営側のリアルな本音です。都市部、特に首都圏で介護付き有料老人ホームの「生活保護受入れ枠」は少ない。
そうしたなかで「たまゆら火災事故」から下ること6年。2015年4月1日に「住所地特例施設変更」の改正が行われました。
その概要は、保険者である市区町村の不均衡を避けるために、市区町村外の介護施設でも入居できるといったものです。
その対象施設が介護付き有料老人ホームのみから、サービス付き高齢者向け住宅へと拡大しました。
そこで化学反応が起きます。
2012年頃に群馬県では供給過多の介護施設を開設していました。もともと保守的な地域性。都市部の住宅事情と異なり「おじいちゃん、おばあちゃんの部屋」が戸建ての1階にある居住性です。
制度本来のサービス付き高齢者向け住宅や、住宅型有料老人ホームのニーズが多かろうはずがありません(施設の種類については「誰も言わない ー 老人ホーム種別の実情」参照)。
空いている居室に、生活保護も含めた「重介護者」を受け入れ始めたのです。
かくして、消防設備と個室面積が改善された「静養ホームたまゆら」にもどりました。
地獄への道は善意で舗装されている
これらが意図して計画的に行われたかどうかは、証拠も無くわかりません。
また、市区町村の行政によって「生活保護の住所地特例」が認められるかは異なります。差異があることへの批判もありますが、『介護評論』では触れません。「東京都墨田区」は厳しいようです。
ある運営者は言います「生活保護だと取りっぱぐれがないから安心できる」
結果的に設備が修繕されないなど、経営が不安定な状態を生み出しています。そしてそれは介護サービスの質に跳ね返るのです。
そして今ひとつ添えておきます。「静養ホームたまゆら」の当時理事長も、本気で人助けをしようとしていました。
ー 本当の「最終的な生活保護」とはこのことを指すのです。
『介護評論』