【誰も語らない】群馬県老人ホームの闇に迫る
2021年1月30日付 上毛新聞「伊勢崎市の高齢者施設 全従業員が一斉に退職届 入居者全員移転」によると、運営に虚偽があったにも関わらず是正されず、そのうえ給料未払いもあるとして、施設長以下全従業員が一斉に退職届を出したと報じました。
なぜ、こうしたことが起きたのでしょう。そしてこの事態は、当該施設だけの問題なのでしょうか?
今回はこの事案から、日本が抱える介護施設の闇に迫ります。
(本記事は特定の施設や団体、個人などに対する誹謗中傷を意図しておりません。その点、悪しからずご了承ください)
群馬県の「種別」には特徴がある
当該施設は群馬県の住宅型有料老人ホーム(施設の種類については「誰も言わない ー 老人ホーム種別の実情」を参照してください)です。
まず、主要のデータを整理します。
▶︎群馬県の介護施設
- 介護付き有料老人ホーム
39施設(構成比10.6%)
- 住宅型有料老人ホーム
233施設(同63.5%)
- サービス付き高齢者向け住宅
95施設(25.9%)
- 群馬県全体
1万人あたり供給施設数1.9
1万人あたり供給定員56.8
▶︎東京都
- 介護付き有料老人ホーム
728施設(構成比54.9%)
- 住宅型有料老人ホーム
211施設(同15.9%)
- サービス付き高齢者向け住宅
387施設(29.2%)
- 東京都全体
1万人あたり供給施設数0.9
1万人あたり供給定員52.3
▶︎埼玉県
- 介護付き有料老人ホーム
195施設(構成比34.6%)
- 住宅型有料老人ホーム
171施設(同30.3%)
- サービス付き高齢者向け住宅
198施設(同35.1%)
- 埼玉県全体
1万人あたり供給施設数0.7
1万人あたり供給定員34.7
特徴その1
群馬県では特に「住宅型」が多いことがわかります。「サービス付き」も含めると、約9割が外部からの介護サービスを受ける方式になっています。
特徴その2
供給施設が多いですが、これは1施設あたりの定員が少ないことを示します。要するに小規模の施設が多いのです。
「介護難民」は既に存在している
東京都の人口は1396万人。日本の約1割以上が集中しています。自宅での介護に限界が生じたとき、特別養護老人ホームへのすぐの入所はハードルが高くなっています。
こうした場合の受け皿として民間の介護施設を利用するのが一般的です。
しかしながら、東京都は土地が高く、比例して居室利用料・入居金が高くなります。やむを得ず「都落ち」をする訳です。
交通の便がよい神奈川県・埼玉県・千葉県を選べるなら、まだ良い方です。
貯金も微々たるもので、年金も月々10万円。家族の支援も3万円が限界…。こうしたときの最後の砦として、群馬県の介護施設が利用されています。
脆弱な運営基盤の介護施設の是非を問う
群馬県では2012年-2013年に開設された施設が、全体の35.1%になります。経年劣化が進んでいることを指しています。
運営母体も異業種参入が多く、そのうえ小規模なので利益率が非常に低い。
また、別稿「誰も言わない ー 老人ホーム種別の実情」でも指摘した通り「住宅型」と「サービス付き」での重介護にはそもそも無理があるのです。
それを相対契約で別途サービス費を設定せず、「丸め」と称してタダで介護サービスを提供している施設が少なくありません。
結果的に経年劣化を修繕することもできず、従業員の給料は上がらないのが実情なのです。
そのうえ経営者が異業種で現場を知らないと最悪です。従業員の声に耳を傾けず、今回のような事案になる訳です。
「人助けで経営している。文句があるなら自前で特養を作ればよいではないか」。
こうした声を経営者から聞いたことがあります。本音を言っているのでしょう。「そのうえで儲けて、雇用を創出している」。
群馬県に留まらず首都圏、ひいては日本の抱える闇から目を逸らしてはなりません。
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『介護評論』