【未解決問題】認知症・予備群の自動車運転事故
東京都豊島区東池袋で当時87歳の男性が運転する乗用車が多重衝突を起こし、母子2人が死亡、9人が負傷しました。2年が経過しようとしていますが、いまだに結審しません。
その事故の痛ましさと、運転者が元高級官僚であったことから世間の注目を浴び、運転免許証の自主返納率が上がりました。
運転免許更新手続きや、サポカー制度などの法整備も行われています。
こうした目先の対策で、国民の関心が無くなっています。今回は “認知症とその予備群” の自動車運転問題を再整理し、解決案を提言としてお伝えします。
残り1460日の「時限爆弾」
問題の原点を確認しておきます。「2025年問題」です。
(出典:内閣府「2020年版高齢社会白書」高齢化の推移と将来推計)
2025年に団塊世代が後期高齢者となり、75歳以上が2180万人になります。人口の17.7%です。絶対数としては2055年がピーク。全人口は減少傾向なので、構成比率は上がり続けます。
75歳が閾値となっているのは、この年齢を境に要介護認定者が跳ね上がるためです。
もうひとつは、65歳以上の認知症は最低有病率(19%)から算出すると698.6万人になり、軽度認知障害(MCI)の400万人を合わせると約1100万人に達することです。
国民の10人に1人が認知障害ー。
もはやマイノリティではなく、社会インフラも含めて変えていかなければ社会そのものが成り立ちません。平均健康寿命が73歳。このことからみても、2025年がターニングポイントになるのです。
自動運転レベル5が必要
65歳以上の「自分が運転する自動車で移動」の平均は56.6%です。年齢別では「70歳〜74歳」の6割が自動車運転をしており、このボリュームゾーンが問題となります。
(出典:2018年度 内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」年齢別の外出する際に利用する手段[複数回答可])
産業革命以降、食糧、公害、運送や医療など、スピリチュアルな問題以外は科学技術の革新で解決してきました。無論、負の側面は否めません。しかし規制は原則として社会を萎縮させ、衰退へと導きます。
それでは、2025年までに自動運転技術が確立するのでしょうか。
(出典:2020年7月15日 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議「官民ITS構想 ロードマップ2020」)
答えは、ノー。
現在のサポカーは運転支援であり、運転自動化レベル1または2の技術です。主に自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)で、追突事故軽減に効果を発揮します。あくまでもサポートであるという位置付けです。
2025年までに高速道路でレベル4の実用化を「目指している」のであり、レベル5に至っては目標期間も定められていません。
余談ですが、6G通信技術や電気自動車の開発、衛星宇宙開発などはすべて繋がった話です(宇宙空間で太陽光発電し、マイクロ波で車に送電して、通信技術で完全自動運転する将来像)。
自動運転レベル5が実用化されるまで、残念ながら規制による事故低減で凌ぐしか無いでしょう。
こうした観点から道路交通法が改正され、運転技能検査が導入されます(2022年6月10日までに施行)。免許更新時に75歳以上で交通違反がある場合には「実車試験」となります。さらに合否の救済的な意味で「サポカー限定免許」が創設されます。
しかしながら、交通違反がないイコール老化による衰えがないというのは短絡的です。
“説得” は不可能に近い
それでは、実際の免許証保有状況を見てみましょう。
(出典: 警察庁交通局運転免許課「2019年版運転免許統計」2019年末の運転免許保有者数をグラフ化)
(出典: 同 申請による運転免許の取消件数の年別推移をグラフ化)
2019年は「池袋ショック」で一時的に自主返納が増加したものの、70歳〜74歳の保有数は612.6万人。大勢への影響はありません。
「ほとんど毎日運転する」が67.4%で、理由は買い物・通院が上位。仕事が30.4%になっています。
特に地方の農業や漁業など第一次産業で生計を立てている人にとっては、免許証は死活問題に直結します。
この層に対して家族が「そろそろ」と説得しても、実際上は難しいのが現実です。
死亡事故は減少傾向にあります。ここでも「池袋ショック」の影響が見て取れます。
(出典: 警察庁交通局「2020年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」原付以上運転者[第1当事者]の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数の推移をグラフ化)
(出典: 同 2020年の原付以上運転者[第1当事者]の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数をグラフ化)
しかし、10万人あたりの死亡事故では75歳以上の件数が圧倒的に多く、さらに問題の70歳〜75歳の群はこれから上積みされます。
それを考慮すると、次回(2022年6月までに施行)の道交法改正内容では現状維持程度です。これは、これからも同じ発生頻度で「池袋死亡事故」が起こり続けることを意味しています。
社会としての許容範囲を越えていると、厳しく指摘しておきます。
死亡事故は市街地が35.7%高い
要約します。
1. 団塊世代が2025年に75歳
2. 認知症・予備群を含めると1100万人
3. 自動運転技術は発展途上で実用時期不明
4. 高齢者の運転免許の自主返納は期待薄
5. 2022年の改正道交法は結果的に現状維持
ある官僚に聞いたことがあります。「国家運営とはそういうものだ」
たしかに一足飛びは国民の反発を招き、時には管理社会へと繋がりかねません。しかし全国民の年齢中央値が48.3歳。高齢者有利の政策に偏っているとの批判は正当です。
改善案その1 :「地域限定免許」の導入
(出典:2018年度 内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」都市規模別の外出する際に利用する手段[複数回答可])
(出典: 警察庁交通局「2020年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」地形別死亡事故件数の推移をグラフ化)
市街地は郊外と比べて35.7%死亡事故が多い。このことからも、75歳以上で実車試験の条件付き合格になった人は、市街地への進入を禁止する「地域限定免許」が望ましい姿です。
改善案その2 : 75歳以上は毎年更新
認知症や軽度認知障害の症状進行は実に様々です。また、病気で退院した後などADL(日常生活動作)が落ちている人もいます。そうした人に自車試験を受けてもらう社会コストとしての導入です。
超高齢社会で母子が犠牲になってはならない
古来「女・子供を守る」というのが、国の重要な役目です。超高齢社会はいまだかつてどの国も経験がありません。今回、その天秤は高齢者側の権利に大きく傾いていることを明らかにしました。
この解決案は、国民全員が再考するためのキッカケに過ぎません。バランスのとれた社会になることを望み、母子が安心して暮らせる環境を整えることが急務です。
『介護評論』