【誰も語らない】老人ホーム運営事業者からみる月額費用
-老人ホーム月額費用の真実- ≪ シリーズ② ≫
≪ シリーズ① ≫では、利用者側の支払う費用について解説しました。今回は逆に、老人ホームの運営者側からみた費用について解説します。
この視点を知ることで、利用者側の疑問である「適正価格」を理解することができます。
損益分岐点は入居率が約7割
≪ シリーズ① ≫でも引用した介護付き有料老人ホームの新規開設を例にします。
老人ホームは介護事業者が自社保有する場合と、非保有の2通りがあります。多数の施設を運営する企業では、バランスシートの都合で後者を選択することがほとんどです。
まず土地のオーナーが、不動産土地活用で老人ホームを建設します。それを介護事業者が賃貸借契約で建物を借り上げます(25年間前後)。実際にはコンサルタント料など複雑ですが、要旨を絞るためここでは割愛します。
介護事業者は毎月定額の家賃をオーナーに支払います。それが居室の家賃に按分され、転嫁されています。したがって介護事業者は安定経営のために、急いで満室にする必要に迫られます。
通常は損益分岐点を入居率70〜80%で計画しています。開設から6か月経過してもホームの入居率が50%以下であれば、計画のどこかに問題があることがわかります。
現状では土地開発の競争やホームの過当競争も進み、ギリギリの設定になっていることが多い。このため、家賃からの利益はごくわずかとなっていることも少なくありません。
食費や医療での儲けは無い
概ね自社厨房、外部厨房委託、セントラルキッチンの3パターンに分かれます。廉価帯のホームはセントラルキッチン方式が多く、自社厨房は全体的に少ないです。
ここでは、比較的多い外部厨房委託について解説していきます。
端的に言ってしまえば、介護事業者に利益はほぼありません。しかし、食は介護施設における三種の神器である「テレビ」「入浴」「食事」にも数えられます。期待値の調整は難しい。入居者の苦情の大半は食事の味だったりします。
それでは、高額帯で食材費が通常の2倍程度なら苦情は出ないかと言われれば、そうでもありません。そうした苦情や希望にも取り組んでいるか否かで、ホームの質が見えてきます。
次に医療ですが、契約そのものに介護事業者はタッチしません。
利益の出ようはずもありません。しかしながら介護事業者にとっては、医療の責任が明確化するメリットがあります。
介護スタッフの給与は介護保険で賄われる
人件費は基本的に介護保険で支払われています。
利用側は介護保険利用の自己負担分をホームに支払います。それが1割ならば残りの9割分を代理受領として、保険者である市区町村から回収しています。
設定にもよりますが、要支援1から要介護5まで入居しています。外泊しない限り、介護サービスの利用有無にかかわらず、利用限度の満額を収めるシステムです。
介護報酬は入居者によって7〜26万円になりますが、平均すると1人あたり20万円前後になることが一般的です。
なお、介護報酬は直接処遇員であるスタッフに支払われるものなので、ホーム長や事務スタッフ、ドライバー、ケアマネジャーなどは含まれていません。それらは管理費から賄われます。本部(本社)機能があれば、その人件費もこれらから賄われているのです。
介護報酬によって事業が左右される業態
法定人員配置は入居者3人に対して、直接処遇員1人です。もし割込んでしまえば、介護報酬を保険者である市区町村に返還しなければなりません。
3対1でピッタリ運営することは不可能なので、余剰人員を抱えることになります。もちろん、この分の報酬はありません。
手厚い人員配置を謳うホームで、別途上乗せ介護サービス費の設定が無い場合は、スタッフの給与が犠牲になっているということです。
人材難なので、この人員配置率を割込みそうなときには「割り高」の派遣スタッフに依頼することになります。
こうして人材紹介会社が幅を効かせることになります。高額な紹介手数料を支払わなくてはなりません。
結果的に経年劣化修繕や賃金アップ、レクリエーション費用などが予算から削られていくことになります。
介護事業者からすると、営業利益率がものすごく低い事業ということになります。スタッフの給与が上がらないのは、この構造が理由です。
30歳の男性が「寿退社」
国は抜本的な見直しをせず、賃金が安い外国人介護労働者でカバーしようとしています。誤解を恐れずに言えば、現代における「奴隷制度の発想」です。将来に禍根を残すでしょう。
介護は全国で需要があること。人生100年時代では、潜在失業者が増えること。仕事量で軽重をつけた給与形態にすること。これらを考慮にすれば、国内だけで十分に足りるのです。
介護が好きで続けたいが、結婚を機にして退職しますー。ある若手男性スタッフの声です。
『介護評論』